奥村宏(2010)『経済学は死んだのか』平凡新書

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奥村宏2010『経済学は死んだのか』平凡新書

奥村の経歴は、産経新聞記者、日本証券経済研究所を経て、大学教員の職を得た。
そして1930年生まれで現役で著作物を出されている。

奥村の強い思いは、第7章に込められている。

1930年代の世界恐慌から、ケインズ経済学、
1970年代の危機(変動相場制やオイルショック)から、新自由主義や市場原理主義が出た。
2008年からのサブプライム恐慌から、新しい経済学が生まれてくるのが必要である。

筆者の業績から具体的な提案を期待する読者も少なくなかったのかもしれないが、それは次の世代の責務となすべきだろう。

現実を直視して、過去の輸入学問のリライトではなく、新しい経済学を打ち出しなさい。そうお叱りをいただいた気がする。

80歳を超えた大家に、機会を提供するということは、編集者にも熱烈なファンを持っている証だろう。

もう一度、奥村の業績を読み直したい。

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原田宗彦(2002)『スポーツイベントの経済学』平凡新書

☆☆☆原田宗彦2002『スポーツイベントの経済学』平凡新書

スポーツをポストモダンな産業として位置づけ、都市のマーケティング、スポーツイベントの経済的効果という視点でまとめられている。

書き出しは、都市には文明の記憶が蓄積されている。アテネやローマを指している。

古代オリンピックは約1200年間、続き、協議会が開催されている間、争いも休戦しなければならなかった。

なるほど、近代オリンピックの創設者クーベルタン男爵の夢は果たせていないのか。

大阪は、2008年の夏の五輪で、北京、トロント、パリ、イスタンブールとともに立候補。惨敗だった。

本書は、国際的に活躍しているスポート関係者の少なさと、英語、フランス語、スペイン語でコミュニケーションできる人材の不足が際立ったとしている。今後の課題として、国際的なサロンの中でロビイストを活用し、専門家の支援を仰ぎつつ友人をつくり、ネットワークを広げ、発言力と影響力を高める努力が重要としている。

出版年の関係から、若者が記憶する同時代的なスポーツイベントが少ないものの、今でも使える課題図書だと思う。

永野 良佑(2011)『20代からのファイナンス入門』(ちくま新書)

☆☆20代からのファイナンス入門(ちくま新書) 永野 良佑、2011/11/7、740円

レビュー
全体としては、需要と供給で価格が決まるということを伝えようとしている。
です、ます調、話し言葉で、書かれている。

金利はおカネのレンタル料(24頁)
金利は、レンタカーの料金やレンタルDVDのレンタル料と性質は同じという。
座布団一枚、わかりやすい例えだ。

第3章外国為替と金利は、一般的に読者の関心が高いテーマだろう。
購買力平価説、金利平衡説を活用して説明されている。
インフレが貨幣価値の下落につながる可能性を指摘している。

為替リスクに晒されているブラジルレアル、豪州ドルなど高金利通貨の投資家には、気になる点だろう。
もうすこしページ数をさいて厚めに説明された方が、読者はハッピーだろう。全体のページ数に制約があるのなら、株式の部分を金利、債券や為替に回すと入門の良書の域に近づくのだろう。

最後に、紙屑になるかもしれない債券という指摘は時機を得ている。
社債を想定して書かれている。欧州危機の中、国債も連想して読むことができた人は、同書が想定する読者以上なのかもしれない。

赤井邦彦(2011)『格安航空会社が日本の空を変える』日本経済新聞出版社

☆☆赤井邦彦2011『格安航空会社が日本の空を変える』

外国人客の受け入れをはじめ観光産業が、日本の21世紀成長産業として期待されている。
日本訪問客を増やす、つまり航空利用者を増やすことだ。
エアアアジアXのアズラン・オスマンラニCEOによると、日本政府にお願いしたいことはビザの取得の簡素化という。オスマンラニCEOのインタビュー(第5章)のほか、羽田対成田(第2章)に厚みがある。

JAL破たんの理由を列挙しているページがある(198頁)。
無策の国策
政治家との癒着
歴代経営者の資質
民営化の失敗
高給与体質
労組問題
銀行の過剰貸し付け
バブル期拡大路線のつけ
大型機の過剰保有
国際線重視の経営
JASとの統合・合併
世界同時テロ
リーマン・ショック
事故

航空会社は、ヒットしたからといってがんがん収益を上げる産業ではない。華やかに見えて、空間を売るという点で、バスや鉄道、倉庫業と同じである。

安全を第一に、政府から認可を得て、コストを管理しながら、顧客の信頼を確保していく。
経営基盤の確立は地道なものであるが、逆に事故や経営判断のミスなどで経営悪化につながるリスクに囲まれている。

JALは1986年から10年間、一ドル平均184円で為替先物予約をし、その後の円高進行で、2000億円以上の損失という。一方、エアアジアXは2008年、1ガロン=100ドルでヘッジ取引をした。しかし実際の燃料価格は100ドルを割り込み、ヘッジ取引の解消で巨額の支払いをしなければならなくなった。しかしヘッジ取引の相手が、リーマン・ブラザーズ。同社の破たんにより、保証料(デポジット)1200万ドルだけで、追加的に巨額の支払いを免れた。

エアライン会社の生死には、相場や先物取引の運にも左右される。女性あこがれの就職先も金融と無縁ではない。